松任谷由実にとって、重要なアルバムのひとつ

「紅雀」と書いて「べにすずめ」と読ませています。
これこそ、松任谷由実を語る上で欠かせないアルバムです。
なぜなら、松任谷由実としての最初のアルバムであり、
この作品を語らずして、松任谷由実は始められません。

スキップするなど、もってのほかです。

結婚して最初に出したアルバムは、重たい雰囲気ではあります。

貫くテーマは女性の意志の強さ

最初の曲は「9月には帰らない
静かな雰囲気の、しかも強さを感じさせる歌です。
この曲を最初に持ってきた意図を考えると、深みを感じます。

ハルジョオン・ヒメジョオン
両方共キク科の一種で、カモミールなどと同じ仲間です。
アルバムと同時発売でこの曲がシングルとしてリリースされました。
少女の残酷さが見え隠れする、はかない歌詞が魅力の曲です。

ヒメジョオンに埋もれて口づけをした
土手と空のあいだを風が渡った
悲しいほど赤く川面や揺れていたの
越していった日から顔も忘れた



私なしでも
フェードインしてくるイントロに乗って、男を捨てて出ていく女の歌です。

「自分でなくこの私のために、近道を選んでしまった」
と言う、いつかあなたの気弱な言い訳が
その胸に私を帰れなくした

男のずるさに、嫌気がさした女性の気持ちです。
「ルージュの伝言」では、彼のママのところに行って
しかってもらうだけだったのに
この歌では、帰らないと宣言しています。
アップテンポのリズムに乗せて、さらりと歌うところも共通点です。


地中海の感傷」と共通するテーマの曲は後に発表する「白日夢」でしょうか。

紅雀」はアルバムタイトル曲で、A面最後の曲です。
これも自分の意思を貫く女性の歌です。

都会的な一面

前の曲と印象が似ていますが「罪と罰」からがB面です。
レコード盤をひっくり返す作業に対し、
気持ちの連続性を保つ効果を狙ったのでしょうか?
この曲のテーマは、孤独でしょうか。
タイトルは、あの名作と同じなのですが、
内容的には、とりあえず無関係ですよね。

※以下の本の表紙は楽天のページにリンクしています。




出さない手紙」「白い朝まで」と、リズムに特徴のある
地味な曲が続きます。

しかし「白い朝まで」は、
ユーミンファンのあいだでたいそう人気の高い曲です。
都会の雰囲気と、短い歌詞、そこにうたわれる感情が
日本人の心に響くのかもしれません。


都会的な雰囲気で思い出されるアーティストはビリージョエルです。
ビリージョエルの「ストレンジャー(アルバム)」が発表されたのは
前年の1977年9月です。
このストレンジャーのシングルが日本でのみ発売されたのが
1978年5月、その後大ヒットしています。
紅雀は1978年3月に発売です。


さて、紅雀の次の曲が「Laundry-Gateの想い出」です。
イントロにストレンジャーのフレーズをあえて使っています。
アメリカで流行している最新の音楽を取り入れる。
何しろ発表されて半年後には、自分の音楽としてリリースするのですから。

「ひこうき雲」自体がそのような性格を併せ持つ曲なので
ユーミン(あるいは正隆さん)の十八番でもあります。

この曲の主人公は二人の少女です。


いろいろと教えてくれた(おそらくアメリカ人の)少女との想い出。
その子は、
男の扱い、ピツァのつくり方を教えてくれました。
ジミヘンのレコードを貸してくれ
16の誕生日に苦い口紅をくれました。
でも、見送る約束をした日に寝過ごしたのです。



この女の子が、次作に入っている「キャサリン」に重なります。

アルバムは「残されたもの」で静かに終わります。

またひとりだけと時が始まった

ただ、それがいいのか悪いのかは言っていません。
その事実を静かに歌っています。


この静かさは全体を通しており、にわかに聞き返してもわからないものでしょう。
長いあいだをかけて何回も聞き返し、やっとその真価がわかります。
ですから、このアルバムはユーミンファンの根強い人気があるのでしょう。
ひょっとしたら、ユーミンファンとしての試金石になるアルバムかもしれません。


この時期に限らず、ユーミンは一貫して私小説は書きません。
しかし、あの曲はユーミンが自分のことを歌ったと思っている人が、 なんと多いことでしょう。